世界の大学事情

【世界の大学事情】第5回 「トランプと高等教育の国際化における来たる革命」「トランプとブレグジット時代の大学教員の国際的なモビリティ」 

その1:『トランプと高等教育の国際化における来たる革命』(Trump and the Coming Revolution in Higher Education Internationalization)(IHE #89: 2017年)

Philip G. Altbach(米国ボストンカレッジ国際高等教育センター研究教授兼創設理事)
Hans de Wit(米国ボストンカレッジ国際高等教育センター教授兼センター長)

 この数か月、私たちは過去半世紀の間に定着し、急速に拡大してきた高等教育の国際化パターンの潮目となる大きな変化の始まりを見てきた。最新の小さな津波は、米国における主にイスラム系の7つの国々の市民に対する入国制限と、それによる大混乱である。ブレグジット、ポーランドとハンガリーにおける内向きの民族主義政府、そしてヨーロッパにおけるポピュリスト主権の台頭はすべて、高等教育国際化の「新たな世界秩序」と呼ぶことができるかもしれないものの一端である。一部の観察者は、現在のパターンが続くと感じているようだが、その意見に我々は賛同しない。私たちは、国際的な学術モビリティが終わるとか、あるいは学術コミュニティ自体が、目標としての高等教育の国際化を放棄していくと主張しているわけではない。また、最近高等教育の国際化「市場」に入った商業的関心が止まるわけでもない。ただ、我々は、これは変化の重要な局面の始まりであると考えている。
 高等教育の国際化は、一連の概念であり、連続した運用プログラムであるということを覚えておく必要がある。この一連の概念には、グローバルな理解に対するコミットメント、多様な文化に対する敬意、そして、様々な政治的・文化的・経済的パートナー間の協力を歓迎する開かれた社会という、グローバリゼーションの肯定的な要素を認識し、それが世界経済の永続的な要素であるとする認識が含まれている。高等教育の国際化は、しばしば国家の「ソフトパワー」の影響の一部としても見られる。近年、高等教育の国際化の運用面は大きなビジネスとなっている。ドル、ユーロ、その他の通貨の巨額の資金が、高等教育の国際化プログラムに費やされ、また大学、民間企業、様々なプロバイダー、保険会社、求人会社やその他がそれを手にしている。外国人留学生は、米国経済に328億ドル以上貢献した。そして現在、英国の大学は、留学生が払う授業料が収入の約8分の1を占めている。これらの留学生はまた、英国の経済に年間約70億ポンドの貢献をしている。
 高等教育の国際化の理想的な側面は、近年、商業化と利益追求によって変わってきたが、この基本的な目標は、現在もこれからも、かなり安定しているであろう。全体として、学術コミュニティはこれらのポジティブな目標を追い続けるだろう。一方、国際化の運営面については、一変することが予想され、外国人留学生や、国際的なモビリティおよび共同研究の機会を求める学者、そしてすべての面でこれらのモビリティによる収益に頼ってきた大学や政府にも大きな影響を与え得る。また、主に欧米の大学が出資し、世界中(その多くはイスラム主流国)にある200以上のブランチ・キャンパスの将来が危険にさらされる可能性がある。

 

外部の現実
 トランプ政権の移民制限に示されるように、世界の政治的な現状は、時とともに変化している。外国人に対して更なる「極端な審査」が実施されるかもしれない。外国人留学生を移民と定義することに関する英国政府の政策変更は、また不安定化を招くことになる。欧州の一部の国では、今後、学生や学者の国際的なモビリティの役割に関する政策や意見の変化が予想される。ヨーロッパのフラッグシップ・プログラムであるエラスムス計画(ERASMUS)が創立35周年を迎えた今年、反欧州連合感情を持つ右派とその支持者の台頭により、このプログラムや、研究協力、また、高等教育の能力構築(キャパシティ・ビルディング)の将来が脅威にさらされたり、あるいは重大な予算削減の対象となったりするだろう。西側諸国では「国境閉鎖」や、少なくとも外国人に対する制限を強化する傾向が悪化する可能性がある。欧米の差別政策の影響を受ける国々が、その報復として、高等教育の国際化のための一種の「貿易戦争」を生み出すかどうかはわからない。
 反例もある。カナダは、他国からの卒業生のために市民権の道を開き、国際的な学術モビリィのためのプログラムを広げ、その扉を開き続けることを明確にしてきた。中国やインドを含む他の国々は、外国人留学生や職員を誘致するための政策を強化するかもしれない。アジア、ラテンアメリカ、アフリカ地域内、そしてこれらの地域間のモビリティを高める傾向が加速するであろう。
 トランプ大統領やメイ首相などのレトリックと政策は、完全に実行される必要はない。敵対行為や差別的行為、国境での嫌がらせ、ビザ取得の困難、その他多くの問題が現実に起こり、人々のモビリティと国際化についての考えに影響を与える。もはや取り返しはつかないのである。
 高等教育の国際化は欧米のコンセプトとして認識され、主に先進国が恩恵を受けてきた。西側諸国の閉鎖性が強まるにつれて、発展の早い高等教育の国際化の次の革命は発展途上国や新興国の中でも起こり得る。

 

起こり得る結末
 上記で概説した傾向の結果を正確に予測することはできないが、以下のような結果が起こり得る。
  • 学生の国際的なモビリティのパターンに重大な変化が生じ、すでに市場シェアが減少している米国や英国に打撃を与える。
  • 米国と英国、そしてそれらの国々の不寛容さと外国人嫌悪に追従する他のヨーロッパ諸国に対する世界的な認識は、これらの国々の世界の学術的格付けにおける優越性、国際的な共同研究の機会、その他の高等教育における威信を弱めるだろう。
  • 米国と英国における公立の高等教育機関は、公的資金の更なる削減や、授業料を支払う外国人留学生の減少により重大な影響を被るだろう。
  • すでに小規模の大学やカレッジでは、人口学的課題に直面しており、多くの場合、外国人留学生の在籍に依存しているため、閉鎖の危険性があるだろう。
  • 米国や英国からのブランチ・キャンパスやその他の国境を越えた教育は失速し、インドや中国を含む他の地域がその場所を埋めることになるだろう。現在、西側諸国のブランチ・キャンパスの受け入れ国である中東などの国々は、これらをサポートすることにあまり熱心ではなくなるかもしれない。
  • 米国のフルブライトや、欧州のERASMUSなどの奨学金制度は予算削減の対象となり、学生や教員の国際的なモビリティを低下させることにつながるだろう。
  • 大学の国際化は、すでにエリート主義であると認識されており、権威のある大学によってのみ提供される可能性が高いだろう。
 同時に、米国とヨーロッパの多くの大学とその教職員が、こうした傾向に抵抗し、国際的な連帯、協力、交流を促進するためのイニシアチブを取ることになるだろう。トランプ大統領とメイ首相により否定された概念であるグローバル市民権は、大学の自治と学問の自由のための大学の戦いにおいて重要な要素となるであろう。トランプ政権によって課された規制に対する米国の大学やカレッジで起きている学術指導者、教職員、学生の反発は、彼らの反対の明確な表れである。これらの反応は、収入の逸失に対する恐れによってではなく、彼らの高等教育の中核的価値への愛着によってもたらされている。

 
※原文はこちらからご覧いただけます。

その2:『トランプとブレグジット時代の大学教員の国際的なモビリティ』(Academic Staff Mobility in the Age of Trump and Brexit?)(IHE #89: 2017年)

Liudvika Leisyte(ドイツ・ドルトムント工科大学高等教育センター教授(高等教育))
Anna-Lena Rose(ドイツ・ドルトムント工科大学高等教育センター研究・教育助手、博士課程学生)

 学者の国際的なモビリティと、それを惹きつける高等教育システムの魅力は、卓越性、ダイナミックな国際ネットワークの創造、科学的パフォーマンスの向上、知識と技術移転の改善、そして最終的には経済や社会福祉の向上にも強く関連してきている。質の高い教育と研究成果、それに大規模な研究助成金獲得という形で測られる高等教育機関の成功は、採用する教員の影響を強く受けている。国際競争が激化する中で、有能な教員を惹きつける能力は、世界中の大学や経済が成功を収める上で重要な要素である。しかし、ポピュリズムや民族主義的傾向の拡大、また、強力な反移民の議論の高まりを特徴とする現在の政治的展開は、大学教員の従来の国際的なモビリティパターンに大きな転換をもたらすかもしれない。

 

従来のモビリティパターン
 外国人の大学教員が占める割合は、オーストリアと英国で25%、デンマーク、アイルランド、オランダ、ノルウェーで30%、ルクセンブルクとスイスでは50%以上であり、これらの欧州各国はこれまで学術的な才能を有する外国人の人材を魅了してきた。2016年に示された「科学・工学指標(Science and Engineering Indicators)」によると、米国におけるポスドクの労働力の半数以上が外国人であった。しかし、既存の学術的モビリティのパターンは、Altbachによる用語でいうところの、前述したような欧米等の学術的中心地域と、学術的周辺地域の不平等を助長する傾向がある。学術的周辺地域は、通常は小さく、地理的に遠隔で、経済的に弱体で、国際的な大学教員にはあまり魅力的でない国々である。これまで大学教員の国際的な頭脳流入と頭脳流出のダイナミクスにおける敗者は、中東欧(CEE)、南欧、ラテンアメリカ、そして一部のアジア諸国や、多くの発展途上国であった。
 エストニア、チェコ共和国、リトアニアなどの、経済的に過渡期にあり、独特な文化や歴史を持ち、そして各国の母国語保護主義を掲げるという特徴を持つ、伝統的に閉鎖的な中東欧諸国における大学教員の国際的なモビリティに関する我々の最近の調査によると、これらの国々は、学術的に有能な人材を国内に維持することと、海外から惹きつけることの両方に苦心しており、その結果、人材が流出する傾向となっている。有能な教員を海外から集める際の主な障壁には、給与水準が比較的低いこと、募集と昇進手続きの透明性が欠如していること、「コネ」の影響や自校出身者を優先採用する慣習があること、年長の教員に外国語語学能力が欠如していることなどが挙げられる。バルト諸国、特にラトビアでは、現地の言語を要求されることが外国人教員にとって更なる障壁となっている。我々の観察では、これらの中東欧諸国に移る学者は、世界の他の国々に移住する学者たちとは異なる要因によって動機づけられているようである。職業的な出世よりも、知識や設備へのアクセス、大学の自治や学問の自由、教育への負担が少なく研究に費やせる時間が多いこと、個人的な縁や家庭の要因、それに受け入れ先の国の歴史、言語、文化に対する特別な関心などがインタビューをした際に語られた主な要因であった。
 最近の政策レトリックでは、海外の学術的な才能を国内に惹きつける必要性が指摘されているが、その為の具体的な方法は欠如しており、法的給与制度や移民法の問題は、ほとんど解決されていない。それと同時に、中東欧諸国においては、EUの構造基金からの投資により、研究のインフラストラクチャーが大幅に改善したことが分かっている。さらに、中東欧諸国の高等教育機関は、外国語(通常は英語)でのコースやプログラムの提供を拡大しており、外国人教員が教育活動へ参加することを後押ししている。加えて、正規雇用のもとで国際的な教員を惹きつけるのに苦心する中東欧諸国において、より多くの機関が、代替的戦略に取り組み始めている。それは、例えばより良い報酬を提供し、研究活動に費やせる時間が多く、国際的な教員にとってより魅力的であるということが特徴の、官民パートナーシップの締結といったものである。

 

ブレグジットとトランプはゲームのルールを変えるか?
 ポピュリズム、民族主義的傾向、そして強力で公的な反移民運動の高まりが世界の多くの国々で見られる中、特にヨーロッパや米国において、科学と高等教育制度の競争力を確保するために、学術的な才能を持つ教員を世界から惹きつけ、留めておくことができるのかという問題は依然として最も重要である。特に「ブレグジット」と呼ばれる英国の欧州連合からの脱退に賛同した2016年の選挙や、米国のトランプ大統領により提言された移民政策を踏まえると、これらの国々へと移る学者の数は減るだろうと我々は推察している。さらに、最近の英国からの報告によると、欧州連合各国からの学者は、英国から去るように本省から通達を受けたとしている。外国人の学者がこれらの国々に移ることや留まる動機やその可能性が減少することは、他国にとって人材の底上げの好機となるのであろうか?
 人口減少、特に若者の移民率の上昇、および学者の高齢化を背景とし、外国人の学生や教員を惹きつけることは、中東欧諸国の高等教育システムの競争率を高め、その存続を確保するために、今後益々重要となる。国際的な教員を惹きつけるため、国や高等教育機関における慣習や法的枠組みを変えることについての重要性に対する認識が高まることが期待される。中東欧諸国の中でも、エストニアは、教員を募集し、学術的才能をもつ外国人を惹きつけるために、国家と高等教育機関の両レベルにおいて、具体的な政策を実施するとともに、明確な目標を設定している成功例として際立っている。エストニアにおける外国人教員の割合は、EUに加盟した2004年と比較して、2014年には、ほぼ8倍以上の8%以上に増加している。最近、ポーランドでは「サイエンス」に広告を掲載し、大規模な投資をしてトップの科学者を世界的に公募する取り組みが増えており、将来的に他の中東欧諸国がこの例に従うことが期待される。
 米国や英国のような国では、学術的な才能を持つ外国人を募集し維持する条件が変化しているため、以前は、高等教育では周辺的立場にあった中東欧諸国やその他の国々には新たな機会の扉が開いたことになるのかもしれない。これらの国が、国家の孤立性を高める傾向に追随せず、入国時の移動障壁を減らす地域の積極例に従うならば、才能ある国外の学者にとって非常に魅力的となる可能性がある。このような場合、我々は学者の国際的なモビリティの傾向における方向性の大きな転換を目の当たりにするかもしれない。

 
※原文はこちらからご覧いただけます。

<翻訳者>新見有紀子(政策研究大学院大学客員研究員、一橋大学講師)