世界の大学事情

【世界の大学事情】第16回 1. 『大学の国際化:ドイツの方法』, 2. 『フランスにおける最優秀大学群の形成:平等から厳選主義への移行傾向?』

その1:『大学の国際化:ドイツの方法』(Internationalization of Universities:The German Way)(IHE #92: 2018年)
Marijke Wahlers(ドイツ学長会議国際部部長)

ドイツの大学における国際化は、1980年代後半から勢いを再び増してきているが、歴史的に見ると、協力とパートナーシップという概念に基づいている。これは1945年以降、ドイツがヨーロッパと世界にしっかりと根を下ろして初めて国際的に認められ、経済的な成功を収めることができるという信念に起因する。したがって、ドイツには、対等な立場と信頼に基づいた大学間の国際的なパートナーシップに基づく、学生や研究者の交流を政治的に支援する伝統がある。1990年代には、Franco–German University(フランス―ドイツ大学)、Sino–German College for Graduate Studies(中国―ドイツ大学院)など、文化交流および国民間の理解を促進する目的で、「信頼に基づいた協力」というアイデアを具体化する数多くの二国間構想が生まれた。この「協力」という国際化へのアプローチは、学生の国際的な流動性を正規の学習プログラムに統合する必要がある欧州連合の教育プログラムからも多大な推進力を受けている。

最近では、ドイツの高等教育システム内で増大する競争と、グローバリゼーションの影響が相まって、高等教育の国際化へのより競争的なアプローチが生まれた。興味深いことに、ここでも重要な影響を与えたのはヨーロッパという側面であり、特にヨーロッパの教育長官たちにより1998年に定義された目標の存在が大きかった。この目標とは、競争力があり国際的にも魅力的なヨーロッパの高等教育圏を作り出し、国際移動をする学生や研究者たちの増加する世界市場で、ヨーロッパがある程度のシェアを獲得することを目指すものである。この点について、ドイツの大学は「才能の奪い合い競争」という標準的なレトリックにためらいを感じていたことは言及に値する。大学の自己宣伝という概念は、以下のようなさまざまな理由から、ドイツの大学にはなじむことのできないものであった。まず、ドイツにおける大学へのアクセスは比較的オープンであり、加えてドイツ国内の大学の質は均一であるという長期間維持されてきた観念によって、それまでドイツ国内では学生を誘致するためにマーケティングをする経験が実際には存在しなかった。さらに、ドイツの大学での研究および教育の質の高さはすでによく知られており、このブランド力が国際的な高等教育市場でも十分通用すると想定されていた。

留学生誘致の異なる論拠
同様に、留学生の誘致に関しては、協力的なアプローチと競争的なアプローチが長い間同時に存在したが、これらのアプローチははっきりと異なっており、互いに関連していなかった。より協力的なアプローチの論拠については、学費が無料の大学教育を提供するドイツの伝統から簡単に見いだすことができる。このようなドイツの状況を背景に、多くの留学生が母国における大学の学位の一部としてドイツで講義を受講するか、ドイツの大学の学位を取るためにドイツの大学で勉強していた。発展途上国や新興国からの留学生に対する奨学金は、多くの場合、学生の出自国の頭脳流出を防ぐために、学業修了直後に母国へ帰国するという条件がついている。ドイツ国民の税金で、多数の留学生に教育を提供することは、国際交流およびグローバルな開発へのドイツの貢献とみなされている。同様に、ドイツの大学の世界各国の同窓生は、ドイツにとって重要な大使であり、世界全域におけるパートナーであると見なされている。

国際化のより競争的なアプローチに関する論拠は、GATE-Germanyのようなドイツの国全体の構想などにみられる。この構想により、ドイツの大学は次第に国際的なマーケティングという観念を受け入れ、その能力を構築してきた。ドイツの大学は、国際的な教育フェアや類似する取り組みへの参加を徐々に増やし、優秀な学生や若手研究者を誘致する目的で国外オフィスを設ける大学まで現れた。この競争的アプローチは政府のみならず企業からもサポートを受けている。企業はしばしば大学を、海外からの学術的に優れた個人に対する「磁石」であると見なしているが、これは残念なことに一次元的な見解であろう。

これらの大学の国際化に関する並行したアプローチは、過去20年の間に留学生の数の飛躍的な増加をもたらした。1997年には158,000人だったのが、2017年には約358,000人まで増加し、全学生の約12%を占めている。ここで特筆すべきは、留学生が多様性に富んでいるということである。ドイツでもほとんどの他国と同様、中国からの学生が圧倒的に多い。ただし、それにもかかわらず、ドイツにおける留学生のうち、中国人の学生は約13%に過ぎず、オーストラリアでは30%、アメリカでは32%、イギリスでは37%を占めるのと対照的である。この多様な留学生たちへの語学や学業への準備に向けた講義に加え、継続的な支援やアドバイスを提供することは、ドイツの大学に対し、財政面以外においても重大な課題をもたらしている。一方、同時に留学生たちはドイツに対し、学業および研究の場としての可能性を提供している。たとえば、真の意味での「国際的な教室」を実現するといったこの価値ある貢献は、大学によってますます認識され、活用されている。

今後の展望
数少ない例外を除いて、ドイツにおける留学生数は、大学が彼らから金銭的な貢献または費用を賄う学費を要求することなく増加している。当然のことながら、これは世界中を驚かせた。ドイツと国際的なパートナーシップを結んでいる他国の大学関係者は、ドイツの同僚たちはただ単に考えが甘いのか、親切なのか、または実際とてつもなく巧妙なのか不思議に思っている。

問題は、ここに説明した矛盾する2つの大学の国際化のアプローチに関する論拠が、将来的には調和することがあるのか、あるとすればどのようにして調和されるのかということである。他のヨーロッパの国々と同じように、ドイツは主要なホスト国の例に従い、留学生に対して、彼らの教育の経費を賄う学費を請求することもできる。留学生の学費をドイツの納税者が支払うべきではないという主張も理解できる。しかし、バーデン=ヴェルテンベルク州によって、欧州連合国以外からの留学生に対する授業料を導入した例(2018年の冬学期から実施)を見ても、単純な費用便益分析は、ドイツのように州優位のシステムでは不十分であることがわかる。この場合、大学は追加される収入から利益を得ることがないのは既に明らかである。大学が追加の事務的業務を取り扱う一方で、収入の80%を国に支払わなければならないからである。

従って、別のオプションの選択にも議論の余地は多くある。ドイツはグローバルな競争の激しいマーケットで、一貫してパートナーシップを基本とした協力的なアプローチを追求することにより、その印象をよりよくすることができる。つまり、国が大学予算の不足額を埋め合わせるために留学生を募集するという主流の考え方から意図的に離れることを意味する。これにより大学のみならず経済および社会が長期的な利益を得ることができるという多くの証拠が存在する。ドイツの大学は、それによりさらに国際化をすすめ、世界中の学生、研究者、および専門家に魅力的な条件を提示することができる。魅力的な条件とは、学業、研究、雇用の法的枠組みだけでなく、大学内外における国際的な文化の確立にもかかわっている。しかしながら、この議論によって、留学生を含む学生は、学費に対する金銭的貢献から免除されるべきであるという結論を下すわけではない。ドイツ学長会議では、長年にわたってすべての学生に対し、適度なレベルで、社会的にも支持された学費を導入することへのサポートを表明してきた。

ここから状況がどのように展開するかは、今の段階ではわからない。ドイツで最も人口の多い州であるノルトライン=ヴェストファーレン州で最近された選任された政府は、欧州連合以外の国からの学生に対する学費を導入する計画を発表した。今後これがどのように機能するか、他の州も追随するのか、これが高等教育の国際化への努力にどのような影響を与えるのかは定かではない。しかし、今明らかにわかっていることは、大学が、入学許可、職員募集、そして資源の配分を含む、国際化問題に対してより広い範囲で自治的な意思決定が可能になった場合にのみ、明確な国際化戦略を遂行することができるということである。

※原文はこちらからご覧いただけます。

その2:『フランスにおける最優秀大学群の形成:平等から厳選主義への移行傾向?』(Creating National Champions in France: A Little Less Égalité, a Little More Sélectivité?)(IHE #92: 2018年)
Ludovic Highman(英・ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン教育研究所上級研究者)

現存しないパリ大学ほど華麗な歴史を持った大学はない。パリ大学は、1968年5月の事件(5月革命)のあと、1970年に13の独立した大学に分離された。この「後任」の大学のうち、パリ・ソルボンヌ大学(パリ第4大学)と、ピエール・マリー・キュリー大学(パリ第6大学)が2018年1月に合併し、多岐にわたる専門分野をもつ単一の学術的機関になることで灰の中からの早急な再生を誓った。この合併は、フランス国内の文脈に加え、高等教育システムの統合、経済的利益の提供、および高等教育機関の世界ランキングの改善を目的とした、広範囲にわたるヨーロッパのトレンドに基づいて理解される必要がある。

まず、フランスの状況は、ナポレオンがかの誉れ高いグランゼコールという、圧倒的に難関で、極度に専門化され、少数精鋭で、職業志向であり、高度の技術や経営に関する教育を行う機関を設立して以降、階層的で二元からなる高等教育機関という要素を持つ、分類不可能な高等教育システムによって特徴付けられている。この二元の他方にある多くの大学は、1968年以降の構造的再編および学術分野に沿った分割を経た専門機関であるという独自の特徴を呈している。2005年以降、ヨーロッパに見られる大学間の合併の傾向に従って、フランスでも、歴史のある大学の再統合は、近年、政府の優先事項となっている。

これらの合併の1つは、2018年1月に実施が予定されている「昔の」ソルボンヌ大学の再生である。Times Higher Education(THE)の世界大学ランキングでは、パリ第4大学は197位、パリ第6大学は123位にランクされている。これらの専門的な大学は各学術分野では高い評価を受けている。2017年の分野別QS世界大学ランキングで、パリ第4大学は芸術人文科学分野で26位にランクされ、パリ第6大学は自然科学の分野で55位、生命科学医療分野では94位にランクされている。世界最古の大学の一つであるという歴史および学術経歴を持つこれら2つの一流専門大学の合併および多岐にわたる専門分野をもつ大規模な機関の設立から我々は何を期待することができるのだろうか?

ヨーロッパにおける最近の傾向
大学間の合併は、重複する授業科目を削減することにより経費の削減を実現するという、政府による高等教育部門の合理化および統合の方法として捉えられることが多い。さらに、合併により統合した機関は、特に研究成果の面における規模が拡大し、世界大学ランキングにおける順位の向上も期待される。ヨーロッパ大学協会の調査によると、大学間の合併は2005年以降広く普及するようになり、デンマークとエストニアがその発端となったとされる。デンマークでは、大学の数は12から8まで減少した。エストニアでは、タリン大学が8つの周辺大学を吸収するなど、2000年から2012年の間に、高等教育機関の数が41から29にまで減少した。

大学間の合併および国家の推進派の誕生
フランスも2008年に先例に従い、Operation Campusと名付けられた最大12の研究や教育センターを設立する50億ユーロのプロジェクトを開始した。これらのセンターはのちにpôles de recherche et d’enseignement supérieur(PRES; 研究および高等教育のハブ)として知られるようになったが、2013年に継続が打ち切られ、communautés d’universités et établissements(COMUE: 大学および高等教育機関のコミュニティー)に取って代わられた。翻訳困難なフランス語の略語のため、これらの機関およびその潜在的な意義が、海外ではうまく理解されなかった。2011年に、上海のAcademic Ranking of World Universitiesの創始者たちは、フランス政府が望んでいたPRESの正式なランク付けを行わないことをフランス政府に通知した。法律上単一機関として合併した高等教育機関のみが評定の対象とみなされたのである。

卓越性へのイニシアチブ
おおよそこの時期を境に、フランスは高等教育機関の統合を奨励するようになり、特に2010年に始まった野心的な Initiative for Excellence (IDEX)プログラムを通じて総合大学、専門大学、グランゼコールの合併を促進している。このプログラムは、フランスの競争力および発展を促すことを目的とした全仏にわたるPIA(将来への投資プログラム)の一環として実施されている。フランス政府はこれまで大学の明示的な機能別分化を避けるなど、伝統的に平等主義に基づいていたフランスの高等教育システム内では、77億ユーロを上位8つの大学集団に割り当てるというこのプログラムによる決定は、カテゴリー5級の超大型ハリケーンと同じぐらいの衝撃をもたらした。

IDEXの第2波は2015年に開始された。2016年にさらに2つの機関が新たに支援対象の候補に挙げられ、2017年には最後の大学集団がこのクラブに加入することとなった。選ばれたIDEXの機関は厳密な監視のもとに置かれ、完全な合併への進捗状況は、その特権的なIDEXというラベルをはく奪する権限を持つ国際パネルによって定期的に審査される。これはフェデラル・トゥールーズ大学を含む多くの大学集団が経験したことであるが、フェデラル・トゥールーズ大学は、2016年に地域的に政治的大変動を引き起こし、マニュエル・ヴァルス首相による大学への介入と、減額されてはいたものの、代替的な財政支援の提供をさせることとなった。

「新しい」ソルボンヌ大学への期待
パリ第4大学とパリ第6大学の合併はIDEX枠組みの下で行われた。2012年にIDEXのラベルを獲得した2つの大学が「ソルボンヌ大学」COMUEの創設メンバーである。国内の大学の統合およびマンチェスター(2004年)やヘルシンキ(2010年)などに見られるような海外における合併を含む、合併を経験した高等教育機関に多様なモデルが見られるということは有益なことであろう。

「新しい」ソルボンヌ大学は、まず人文および社会科学、自然科学、医学の3つの中枢的学部によって構成される。さらに、パリ北部にあるコンピエーニュ工科大学も併合され、その上位にランクされた工学部を含む大学の専門分野の拡大を図る予定である。またこのコンソーシアムの創設メンバーであるパンテオン・アサス大学(パリ第2大学)は、新しいソルボンヌ大学の法学部として再び組み込まれる。

この新しい大学は、ヨーロッパではOxbridge以外に匹敵するものが存在しないその長い歴史を基に、首尾一貫した包括的な戦略を有するが、問題も残っている。18%の留学生を含む6万人もの学生、7, 700人の教授および研究者、45の企業支援による研究職、および200の研究所を抱えるこの巨大な大学を管理するのは大仕事である。圧倒的に法学部志向の強いパリ第2大学は、自治とリーダーシップに関する懸念、そして、パリ第6大学および自然科学分野に支配されているより大きな組織への包摂を避けるために、かつてはこの集団を離れた。その際、パリ第2大学は独立したステータスまたは他の法科大学(パリ第1大学)との合併オプションを望んだのである。しかし、今日の高等教育の状況では、専門分野間の競争などは考慮されない。フランスの元高等教育相のヴァレリー・ぺクルス氏が述べたように、「今日の、優れた研究と優れた教育の為には、多くの専門分野を網羅する大学が必要である」(2011年)。

結論
今日の世界的課題は、一つの国、一つの大学、一つの専門分野のみで解決できるものではない。多岐にわたる専門分野、大学間および大学内での協力、国境を越えた国際的な協力によって、世界的な社会的課題に取り組み、国連の「持続可能な開発目標」を達成することが可能となる。

フランスは、今や従来からの平等主義の伝統から離脱しようとしている。IDEX機関とこの特権的プログラムに選ばれなかった大学との隔たりは広がっている。2018年のTHE世界大学ランキングでは、IDEXは全般的に他のフランスの教育機関を上回っていた。Paris Sciences et Lettres(PSL Research University)は72位にランクされ、国内でのトップになった。IDEXとラベル付けされた大学のうち、エクス・マルセイユ大学は251–300位、グルノーブル・アルプス大学は301–350位、コートダジュール大学は351–400位、ストラスブール大学は351–400位、と後に続いた。これらのランキング結果は疑いもなくフランスの役人たちや高等教育機関の幹部を失望させるだろうが、IDEXはゆっくりと確実に発展しているのは確かである。

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<翻訳者>新見 有紀子(政策研究大学院大学 客員研究員、一橋大学 講師)