世界の大学事情

【世界の大学事情】第13回 1. 『学長職のグローバル化:優れたリーダーシップのための競争』, 2. 『高等教育システムの大衆化と研究大学』

その1:『学長職のグローバル化:優れたリーダーシップのための競争』(Globalizing the Academic Presidency: Competing for Talented Leadership)(IHE #92: 2018年)
Richard A. Skinner(ハリス研究会シニアコンサルタント・カナダロイヤルローズ大学およびアメリカクレイトン州立大学元学長)

高等教育もグローバル化に無縁ではない。今日、研究活動を中心とする大学では、学生および教授が海外で活動することを奨励およびサポートしていない場合は珍しく、そして依然として数こそ控えめながら、他国で大学を率いるために、海外出身または海外で教育経験のある学長がますます選出されるようになっている。

2つの事例
アメリカの大学は、1930年代の終わりから、特に第2次世界大戦のさなかとその後に移住してきた海外生まれの学者、思想家、および研究者を大量に呼び込むことで利益を得た最初の例である。1965年のアメリカ移民法改正以降において、特にインド、韓国、および台湾からの学生の数における着実な増加があり、彼らは、アメリカの大学に入学して、高等教育学位を取得し、そして職員や、部門長、学部長、副学長、そして学長として米国に留まった。

今日、全米で最も高い名声を誇る研究大学が加盟しているアメリカ大学協会(AAU)のメンバー60人の学長のうち、12人が外国生まれの人物で、彼らはオーストラリア、中国、インド、そしてベネズエラの出身である。この数値の背景として、その前の世代の1992年には、同じアメリカ大学協会のメンバーのうち、6人が外国生まれで、カナダ、中国、ドイツ、イラン、ノルウェー、そしてスウェーデン出身の学長だった。

アメリカ大学協会メンバーの学長の内の二人は、自らの国際的な移動経験が豊かであるということに加え、自らが高く評価されているのは、少なくとも部分的には自国以外の国々での経験によるものであるだろうと述べている。まず、フランス人でスタンフォード大学の同窓生であるJean-Lou Chameauは、サウジアラビアのキング・アブドゥッラー科学技術大学(King Abdullah University of Science & Technology; KAUST)を率いるためにカリフォルニア工科大学の学長職を辞した。そしてインド生まれのSubra Sureshは、シンガポールの南洋理工大学(Nanyang Technological University in Singapore)において学長職を引き受けるためにカーネギーメロン大学の学長を辞したが、その後任として、イランからの移住者であるFarnam Jahanian副学長が学長職を引き継いだ。

学長職のグローバル化の二つ目の事例は、2017年のTimes Higher Education(THE)世界大学ランキング中、上位50位の中に含まれる25の非アメリカの大学の学長が、自らが学長職に就くまでに経験した国際的な教育および雇用経歴に言及している点である。

  • オーストラリア国立大学:アメリカで生まれ、アリゾナ大学とハーバード大学で学位を取得。
  • スイス連邦工科大学ローザンヌ校:スタンフォード大学で修士を取得、コロンビア大学およびカリフォルニア大学バークレー校の元教員。
  • 香港科技大学:香港生まれで、カリフォルニア工科大学およびスタンフォード大学で学位を取得し、カリフォルニア工科大学、イェ―ル大学、およびカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の元教員。
  • インペリアル・カレッジ・ロンドン:アメリカ生まれで、リーハイ大学の元学長。
  • カロリンスカ研究所:ノルウェー出身およびノルウェーで教育を受けた。
  • ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス:エジプト生まれ、アメリカで学士号取得、オックスフォード大学の博士号取得。
  • オックスフォード大学:アイルランド生まれ、UCLAおよびハーバード大学で大学院の学位を取得。
  • ブリティッシュコロンビア大学:ハーバード大学、ジョンズ・ホプキンズ大学、エモリー大学、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の元教員、およびシンシナティ大学の元学長。
  • エディンバラ大学:ドイツ生まれで、テキサス大学およびゼロックスのパロアルト研究所(Xerox PARC)で勤務。
  • 香港大学:イギリス生まれで、2018年にアバディーン大学の副総長に就任予定。
  • イリノイ大学:ウェールズ生まれで、UCLで教育を受け、コロラド大学ボルダー校およびミシガン大学の元教員。
  • メルボルン大学:カリフォルニア大学バークレー校およびハーバード大学の元大学院生。

25人の非アメリカの大学の学長の中で、約半数(12人)は自らの出身国以外の国の高等教育機関において長期にわたる教育または雇用の経験を持つ。対照的に、THEランキングの上位25のアメリカの大学の中で、8人の学長または総長が外国生まれで(イギリス、カナダ[2人]、キューバ、インド、イラン、台湾、そしてベネズエラ)、4人のアメリカ生まれの学長がイギリスの大学から学位を取得している。

いくつかの推論
特に、検証される国々や、文化、そして教育システムが多様であるとき、ここで例示された事例のサンプルは二つと少ないため、学長職をめぐる新たなトレンドのように見られる現象を説明するための基盤となるとは言えない。だが、それでもなお、いくつかの推論は成り立つだろう。

まず、実際の学長および総長の選択という点から議論を始めるのが良いだろう。最近まで、ほとんどの国々における学長の選択の手法は、教授たち(そしてときには、その高等教育機関の他の教職員)による選挙か、政府による選択だった。このプロセスは近年変化し始め、今日、多くの学長は、政府とも様々な程度のつながりを持ち、多様な大学関係者によって構成される公式の評議会によって選出される。もうひとつの方法は、一般的に大学内の代表者と、政府によって選択された学外者の組み合わせからなる人々の理事会に基づく。そういった理事会の実際の自治性は大幅に異なる。

これまでの記録やエビデンスから、概して、ある特定の選考方法が学内のメンバーに優勢な発言力を与えるときは、学長には学術関係者で、自国出身の学者が優先して選ばれる傾向が示唆されている。慣れや親しみは、学長の選出において、軽蔑を助長しないようであると言える。

学長を選考するメンバーの中で、非学術関係者が学術関係者の数を上回る場合には、外国出身の候補者(しかし、依然として学術関係者の方が選ばれる可能性が高い)が選出される傾向がより強いとみられる。これは学術界以外の、特にグローバル化がはるか以前に実践上の現実になっているビジネスとファイナンスの分野での経験を持つ委員会または理事会のメンバーに由来する。彼らのように日頃から、世界中の様々なタイムゾーンにいる人々と交流をしている人々にとっては、留学経験または海外大学での勤務経験をもち、海外の大学で成功した経歴を含む、積極的に国際的な活動に従事した経歴を持つ学長候補者は、それほど異例ではない。

大学に以前にも増してさらなる自治を認める国家政府と並んで、近年「市民」理事会による統治を含んだ非学術関係者の役割が増加しているようなので、外国出身の学長がより強力な候補者として検討される可能性が高いと推定できるかもしれない。従って、ここで観察された外国出身者の学長をめぐる新しい傾向は、今後も長期に渡り継続または発展していくかもしれないと言える。

自国出身者ではない学長の選出を促す第二の要素は、それが、さらに大規模な発展を遂げている国際高等教育の一部分であるということである。世界中で、外国で学ぶ学生の推定数は年間で370万人から500万人に及び、対前年比における成長は10~12%となっている。また、2014–2015年および2015–2016年に外国の機関における教員交流に関するデータは、世界中で7%以上の増加を示し、長期間にわたって海外で過ごすことを望む教員の数は、1年間の例外を除き、数年間継続して増加している。さらに、300以上の大学が、国外のキャンパスを運営し、その大学の名の下に、現地で完結する学位プログラムを国外の運営者によって提供している。

海外出身の学長が選ばれる三つめの推論は、海外での教育経験を持つ者は、教育のために自分の故郷、家族、そして友人を離れ、別の国、文化、そして言語に向かう勇気と自発性を持つ人物であろう、という言説に依拠している。そういった人物は、当人が在籍する大学を含む、新たな環境において優れた力を発揮するための大志と意欲を持っている可能性が高く、ときには教授、部門長、学部長、副学長として従事し、そして、学長にも選ばれうるのである。

※原文はこちらからご覧いただけます。

その2:『高等教育システムの大衆化と研究大学』(Postsecondary Systems, Massification, and the Research University) (IHE #91: 2017年)
Philip G. Altbach(米国ボストンカレッジ国際高等教育センター研究教授兼創設理事)

過去70年間に、高等教育機関に在籍する学生の数および、世界中でますます多様化している高等教育の機能の両者はかつてなく拡大・大衆化しており、高等教育における真の革命を象徴していると言っても過言ではない。過去たった10年間かそこらのうちに、外国人留学生の高等教育機関における入学者数は倍増した。しかしながら、高等教育における質の維持や、ますます多様化する学生集団の様々なニーズに対応するという新たな学術的な機能を果たすために、その役割が明確に定義され、機能別に分化した高等教育システムを作るための包括的な努力をしてきた国はほとんど無いと言って良い。

経済が複雑化するとともに、国際的な結びつきが強まるにつれ、それを維持するために、より高度な水準のスキルが必要とされるようになり、適格な労働力を準備する上で高等教育が頼りにされてきた。あらゆる場所において、高等教育経験の有無が、社会的流動性と技術職市場へ参入するための必須条件となった。高等教育機関において増大する多様性は、高等教育機関へのアクセスに対する多大な需要に対応して進展してきたものであるが、その多様化の一方で、高等教育機関は首尾一貫した機能別の分化をしてこなかった。

同時に、世界中の伝統的な研究大学は、社会のリーダーシップ的立場を担う専門家を育成する一方で、拡大する高等教育セクターのための学術スタッフを教育し、研究を遂行し、グローバルな知識ネットワークに従事するということへの高まるプレッシャーにさらされてきた。高等教育の大衆化以前は、これら伝統的な研究大学は高等教育セクターを支配していた。今や多くの国々ではこれらの研究大学は一般的に少数派である。それにもかかわらず研究大学は主要な高等教育機関としての重要性を中心的に持ち続けているが、かつてない予算面でのプレッシャーや、増大するアカウンタビリティー(説明責任)に対する要求、そして「世界トップレベル」になるためのグローバルな競争にさらされている。高等教育セクターにおけるその他の機関は、これら一流の研究大学にリーダーシップを期待して目を向けているが、研究大学は大部分において、その伝統的な役割を果たすにとどまってきた。全般的に研究大学は、より広い高等教育のエコシステムにおいて欠かせない部分を占めるということや、より広い学術コミュニティに対してリーダーシップを提供する責任があることを認識してこなかった。

そこかしこで出現してきた数々の混迷する高等教育機関を整理・統合するという明確なニーズが存在する。多くの国々では、新たに設立された高等教育機関のかなりの部分が私立セクターに属し、その中で営利目的の機関が占める割合も増加傾向にある。私立の高等教育機関が、より広い公共の利益に資することや、許容できる水準の質を維持して機能することを保証することは非常に重要である。

これらの、市場の要求に対応し、一般的に制約を受け無い形で進展してきた高等教育機関の多様化は、過去半世紀に出現してきた一連の複雑な社会的目的に資することを目的として、機能別に分化がなされた高等教育システムを開発するための計画的な努力で置き換えられる必要がある。そういったシステムは、異なるタイプの高等教育機関の特定の役割と責任を理解し、各々のタイプの機関の重要性を認識するとともに、異なるタイプの機関が効果的に連携することを保証するべきである。

研究大学はあらゆる学術システムの頂点に位置する一方で、研究大学自身が多面的なシステムの不可欠な一部分であることを認識しなければならない。研究大学は、高等教育の巨大で複雑なシステムの小さな一部分でしかなく、研究大学という単一の機関が拡張しすぎることなく、システムの残りの部分が研究大学の模倣を追求しないことが重要である。

これらの課題は、最近ドイツのハンブルグにおいて、ケーバー財団(Körber Foundation)と、ハンブルク大学、そしてドイツ大学学長会議 (German Rector’s Council; HRK)によって年2回開催されるハンブルグ国際大学リーダー協議会(Humburg Transnational University Leaders Conference) において、多様化し機能別に分化した高等教育システムをテーマとして議論された。世界各地から集まった50人の大学のリーダーがこの主題について議論し、彼らの展望を反映した以下の声明が発表された。

ハンブルグ宣言:21世紀のための高等教育の組織化
研究大学の役割

  • 最高学府としての研究大学はグローバルな知識経済の中心である。これは社会、学究的環境、産業、そしてより広い経済に資するリーダー、科学者、および学者を教育する。大学は研究を遂行するとともに、インターナショナルな科学の窓口を担う。
  • 研究大学は高等教育が成功するために欠かせず、公益にも貢献する。
  • 研究大学は、ますます複雑で多様になる教育のエコシステムにおいて機能し、様々な集団およびニーズに資する多数の機関で構成される。現代社会において効果的であるために、研究大学は教育、研究、人格形成、および社会奉仕を行うという本質的な役割を維持しなければならないが、高等教育分野における他の機関と建設的に協力するとともに、これらの他の機関に例を示してリーダーシップを提供しなければならない。

効果的な機能別分化のための要件
グローバルな高等教育システムに向けた機能別分化プロセスが、科学的にデザインされ、価値を重視した方法で発生するためには、以下の段階が必要である。

  • 明確な機能別分化:各々のタイプの高等教育機関の使命が明確に定義され、守られるべきである。管理者は適切な学術的分化が維持されるために努力すべきである。我々はグローバルな大学ランキングがしばしば均一性を促進することで機能別分化を歪めるということに注意が必要である。
  • 自治性:高等教育機関は、その使命を果たすために必要なリソースを管理する権限を与えられるべきである。
  • 資金調達:各々のタイプの高等教育機関の使命を果たすために十分で、予想可能な資金調達の流れが確立されなければならない。
  • 質:学術的な専門家によってデザインされ施行される質保証システムは、すべての高等教育機関に不可欠な要素であるべきである。
  • 浸透性:学生に高等教育に対する公平なアクセスを可能にする接続メカニズムがあるべきであり、彼らが教育上の身分を失うことなく様々なタイプの機関の間を容易に移行できるようにすべきである。
  • 一貫性:グローバルな高等教育において、もっとも急速に成長している分野である私立の高等教育機関は、効果的な高等教育システムに注意深く統合される必要がある。

ハンブルグ宣言は、参加した50人の大学学長ならびに支援団体の懸案事項を反映する。高等教育の大衆化は、学生および教員機関の数の劇的な増加だけでなく、高等教育機関の複雑性と多様性の増大も意味している。今現在、世界のほとんどの地域で未解決のままとなっている中心的課題は、高等教育における合理性を保証することである。さらに、高等教育はますます多様化する学生集団とグローバル化された複雑な経済に対しても役割を十分果たしていく必要がある。

注意:ハンブルグでの評議の情報を記したレポートは、ケーバー財団の以下のURLから無料でアクセス可能である。 http://www.bc.edu/content/dam/files/research_sites/ cihe/pdf/Korber%20bk%20PDF.pdf.また、このレポートは書籍としても公表される。Philip G. Altbach, Liz Reisberg, およびHans deWit編, Responding to Massification(画一化への対処): Differentiation in Postsecondary Education Worldwide (世界の高等教育における機能別分化)(ロッテルダム, オランダ: Sense Publishers, 2017).

※原文はこちらからご覧いただけます。

<翻訳者>新見 有紀子(政策研究大学院大学 客員研究員、一橋大学 講師)