世界の大学事情

【世界の大学事情】第11回 1. 『U-Multirank(ユー・マルチランク)と中南米諸国の大学』, 2. 『世界大学ランキングは大学により高い業績をもたらす原動力となるか』

その1:『U-Multirank(ユー・マルチランク)と中南米諸国の大学』(U-Multirank and Latin American Universities)(IHE #84: 2016年)
Ana García de Fanelli(アルゼンチン・国家社会研究センター(CEDES)国立科学技術研究会議研究員)

U-Multirank調査は、2014年に初めて行われた。U-Multirankとは、高等教育の国際的なランキングに対する多面的かつ利用者視点でのアプローチである。世界中の850以上の高等教育機関が対象となり、中南米の大学もいくつか含まれている。この取り組みは、EUの資金支援を受けて行われている。

上海交通大学によるAcademic Ranking of World Universities(ARWU)または、Times Higher Education(THE)によるランキング等、研究活動に焦点を当てた世界大学ランキングとは異なり、U-Multirankは教育と学習、知識移転、国際化、地域貢献等、高等教育の多重性にも取り組んでいる。また、最も重要な点として、利用者が大学を比較する際に、どの側面に関する業績を含めるか選択できるようにしている。他の世界大学ランキングが利用する出版物や特許データに加え、U-Multirankは大学機関や学生からの情報も(大学機関への質問紙や所属している学生へのアンケートを通じて)収集している。

残念ながら、中南米の大学で研究以外の指標に係る情報が公開されているのは稀であるが、本稿では、より多くの中南米の大学が近い将来、この興味深く重要な取り組みに参加できるようになるかどうかについて論じる。また、中南米における同様の取り組みを紹介するとともに、U-Multirankの大学向けアンケートで求められるデータに関する分析について言及する。

中南米における同様の取り組み
研究面を重視する世界大学ランキングに対応し、自らの運営と成果についての多数の側面に係るデータや指標を提供するために、中南米の大学は国内及び国際的なプロジェクトに関与し始めた。

まず、欧州委員会の中にある中南米学術訓練(Latin American Academic Training: ALFA)プログラムの財政支援を受けた「欧州との共通高等教育機関のための中南米高等教育機関統合情報システム(Integrated Information System for Higher Education Institutions in Latin America for the Common Higher Education Area with Europe: INFOACES)」は、U-Multirankと同様の目的を有する。同ネットワークは23ヵ国における33機関(中南米18機関、欧州5機関)が連携し、スペインのバレンシア工科大学が調整役を担っている。INFOACESのウェブサイトには、参加大学の基礎的情報とウェブサイト、提供学位の分野別のリスト、学生総数(またはデータがあれば、学位プログラム別の学生数)と教員数を掲載しており、ネットワーク所属大学は、経営判断に資する非公開のデータベースへのアクセスも可能となっている。また、それらの大学は「ナレッジ社会における柔軟なプロフェッショナル(Flexible Professional in the Knowledge Society: PROFLEX)」というオンライン・アンケートによる卒業生のモニタリングを実施するプラットフォームへもアクセスできる。
メキシコの高等教育機関に限定されるが、メキシコ国立自治大学による「メキシコの大学比較分析(Comparative Study of Mexican Universities: EXECUM)」というデータベースは、追加的でより深い見識を提供している。そのウェブサイト上では、教育、研究及び財務情報の比較、そして認定を受けたプログラムや全国研究者システム(SNI)の研究者数等、メキシコの高等教育の質保証政策に係る結果も提供している。EXECUMは、科学技術などの分野については詳細な情報を含んでいるが、教育におけるプロセスや成果等については情報量が限定的である。

大学向けのアンケートで求められるデータ
中南米における既存の取り組みは、U-Multirankへの将来的な参画に向けての良い出発点である。しかし、大学機関向けのアンケートで求められる教育に関するインプットとアウトプット、また、財政面の課題に係るデータは殆どの中南米の大学においては入手困難である。

例えば、大学ごとの留学生(特に学位プログラムや交換留学プログラムに参加している留学生)に係る包括データは殆ど存在せず、インターンシップに参加した学生、通常の期間内に卒業した留学生数についても同様である。卒業生については、中南米の大学では、チリにおける幾つかの大学を除いて、同窓生が進学したか就職したかを追跡するシステムが一般的に欠落している。幾つかの中南米の大学では、特定の学位プログラム卒業生を追跡するシステムが存在するところもあるものの、体系的には行われていない。また、財務に係るデータの一部、特に大学の項目別総収入(中核予算、授業料、研究等の外部資金、ライセンス契約収入等)についてのデータは入手が難しい。最後に、中南米の大学の保有資金が研究、教育、知識移転にどのように割り当てられるかは明確ではない。

もちろん、中南米の高等教育に係る統計の量と質については、国または大学分類ごとにばらつきがあることも考慮に入れるべきである。

結論
中南米の大学からこれらデータや指標を収集することが難しいことは、必ずしもU-Multirank及びその他ツールに参画して将来的に高等教育の透明性を改善することができないということを意味しない。この目標を達成するため、大学に対して参画への適切なインセンティブ(潜在的な便益を増やし、透明性に関するコストを引き下げる)が与えられるべきである。また、大学はこれら情報を抽出するために適切な技術的・人的・財政的な資源を用意すべきである。

高等教育のシステムに係る情報は、非排他性・非競合性を有し、公共の利益に資するという特徴を持っている。もしその情報が実際に公共の利益に資する際には、政府が当該サービスを提供する責任がある。中南米の各大学が、高等教育統計に係る社会的需要に応じ、必要な量的及び質的データを自発的に提供するとは考えにくい。特に、教育、学習成果、国際化に係るデータを定期的に収集する取り組みを継続的に行える可能性は低い。この目標を実現するためには、中南米諸国政府がこの革新的な取り組みに応じ、資金提供の枠組みやその他のインセンティブを用いて、大学が成果指標に基づく情報を提供し、定期的に公開するよう促すべきである。

※原文はこちらからご覧いただけます。

その2:『世界大学ランキングは大学により高い業績をもたらす原動力となるか』(Do Rankings Drive Better Performance?) (IHE #89: 2017年)
Simon Marginson(英国ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン教育研究所国際高等教育教授兼ESRC/ HEFCEグローバル高等教育研究センター長)

世界大学ランキングが発表され始めてから僅か13年であるが、国際高等教育において確固とした地位を確立し、国際高等教育のセクターに根本的な変革をもたらした。世界の大学をランキングで格付けする動きは不可避である。関係者であれ部外者であれ、高等教育について理解したいという意欲は強く、ランキングはこれに応じる最もシンプルな方法である。世界大学ランキングは、大学間の上下関係を明確化すると共に大学の連携戦略の裏付けともなり、投資家が大学の研究能力を知る指針ともなる。更に、世界大学ランキングは、その多くのデータの質にばらつきがあり、すべてのランキングが良くも悪くも予想に反する効果をもたらすにもかかわらず、何千人もの留学生や教員たちの人生の重要な決断を導くものであると言える。

世界大学ランキングは、世界の高等教育を相互に関連し合った環境に作り替え、ある潜在的な機会を強める一方、他の機会を遮断する作用をもたらした。それは以下3つの点についてである。第一の点は、競争原理である。大学ランキングは高等教育が大学間や国家間の競争市場であるという考えを世界に強く印象付けるに至った。世界大学ランキングの結果を最も左右する研究業績に加え、大学の評判についての競争が行われている。第二の点は、ヒエラルキーである。ランキングは評価システムにおいて主要な要素を占めるため、知識と、各大学の卒業生が国内外の労働市場にもたらす経歴に対して、異なる比重が割り当てられる。ランキングを通じて大学は、政治経済、労働市場、そして大学が拠って立つ社会の不平等との繋がりをより深めていく。そして、第三の点は業績である。世界大学ランキングは、各大学において、業績の向上に駆り立てる熱狂的な文化を作りあげ、学問における行動をコントロールする業績経済を各大学に組み込んだ。

不平等な競争
大学における研究活動と卒業生の労働市場に競争的な要素があることは自明のことである。しかし世界大学ランキングは、指標やインセンティブを付加することで、この競争を、より強く、また原始的なものにし、多くの大学の学長らに競争を主たる戦略に据えることを強いる。そして、大学システム内での結束と協力体制の弱体化をもたらす。

研究者は、世界大学ランキングの結果に拘らず他の研究者との共同研究を継続する。研究協力を行うのは研究者の自己利益のためであると説明されることが多いが(共同出版は論文引用率を向上させるため)、世界大学ランキングの評価基準には、共同研究による出版という項目が含まれている。ここで重要な点は、グローバルな高等教育における優れた集合知の大部分が競争的に配分されていることである。

研究協力は、世界大学ランキングによって決められた価値のヒエラルキーにより更に阻害される。研究や学びは国境を越えて自由に移動するが、価値は同等ではなく、明確に地位のヒエラルキーが存在する。このヒエラルキーを決めるのは、資質や学びの価値を測定するグローバルシステムではない。資質を測るグローバルシステムは存在しないし、学びが相対的に測定されることはない。このグローバルなヒエラルキーを体系化しているのは、世界大学ランキングによって分類され、評価され、知識のランキング付けがなされ、そして要約されて世界各国へ広がっていくという過程である。

知識はジャーナルの評価指標とヒエラルキー、出版や引用にかかる評価指標及びそれらのヒエラルキーにより順位を授けられるが、これは主に研究活動に基づいてなされている。上海交通大学によるAcademic Ranking of World Universities(ARWU)、Leidenランキング及びScimagoでは全指標、Times Higher Education(THE)によるランキングにおいても2/3以上の指標が研究業績にかかるものである。世界大学ランキングは、知の生産者とその生産物の価値を決定することで、各大学における研究状況を大学機関のヒエラルキーに変換する。知にかかる評価指標と大学ランキングは、研究に強いトップ大学の独占状況を永続化させる。

業績の向上?
世界大学ランキングは業績の向上をもたらしたのだろうか。これはランキングという競争原理導入の究極的な論拠となるものである。もし、世界大学ランキングが大学の真の業績に基づき、大学の重要事項について測定しているとするならば、ランキングの向上は業績の向上を意味するはずである。もし全ての大学が高い順位を目指すならば、すべての大学において業績が向上しているはずであるが、これは事実であろうか。この問いへの答えはイエスでもありノーでもある。

世界大学ランキングによって、「ランキング」「戦略の策定」「向上するための努力」「業績の改善」そして「ランキングの向上」という正のサイクルとなる可能性はあるが、課題もある。まず、大学の行う活動の一部のみしか世界大学ランキングに含まれていない。また、教育と学習については正のサイクルが成り立ちえないことから、業績を向上させる原動力としては、大きな ギャップが存在する。また、多くの研究にかかる評価指標はこの正のサイクルに入りうるが、人文科学及び関連社会科学、専門職にかかる学術分野、そして英語以外の研究は除外される。科学についても、幾つかの世界大学ランキングは業績を向上させる原動力となるが、そうでないものもある。他の要素がすべて同等とした場合、出版数や引用数にかかる整合性の取れた評価指標に根差した世界大学ランキングは、優れた研究業績の増加を促す (例:ARWU, Leiden, Scimago)。2003年以降、研究業績に基づいた世界大学ランキングは、大学の科学研究能力に対する投資増大に貢献し、大学機関における戦略の範囲内での研究業績の向上をもたらした。

他方、THEランキング及びQSランキングでは、結果は混在している。これらが強い研究指標を利用した限りにおいては、正のサイクルをもたらす「可能性」がみられる。教授当たりの引用件数を測るQS指標、及び、引用件数と研究の量を測るTHE指標等はこれに当たる。ただし、これが「可能性」にとどまるのは、研究に基づく指標が複合的な指標に埋もれていることでインセンティブが鈍くなっているためである。

国際化に係る指標は、海外からの教員・学生数や国際共同出版の増加へのインセンティブとなるが、全体の大学ランキングの中では扱いが小さく、また、業績を向上させるインセンティブは複合的指標の一部として埋もれてしまっている。

従って、大学は、教授当たりの引用件数や国際化の指標で業績が向上しているかもしれないが、QS及びTHEランキング双方において大きな割合を占める(実体上の業績とは関連性のない)大学の評判についての調査における結果が悪化すれば、大学ランキングの順位が落ちる可能性もある。評判についての調査は、業績に関する意見のデータを含み、業績自体のデータではないため、正のサイクルに必須となる「努力」「業績の改善」「ランキングの向上」の間の繋がりは切れている。そして、測定方法の小さな変更によって、ランクに変動がある際にも同様のことが言え、「努力」「業績の改善」「ランキングの向上」との間の整合性の取れた繋がりはない。

もしかするとあなたは、大学の学位の価値は大学間の上下関係で決まるため、学生にとって評判は大事であると言うかも知れない。それは確かに正しく、調査に基づいた評判に関するヒエラルキーは、他要素との混ざり合いがないため、それ自体として重要な示唆を与えることも事実である。これは確かに興味深いが、評判によるランキングのみでは、実体上の実績向上を継続的に促進することはできない。なぜならそれは、大学を位置取りとマーケティングのゲームに駆り立てるのみで、継続的に関係者や公共の利益となるためには、最終的には、評判も実際の業績を伴わなければならないからである。

この点は、例えによって説明しうる。サッカーのワールドカップ優勝チームは、フィールド内で配分された時間内により多くのゴールを決めたチームに決まる。そして、もしFIFAがそのルールを変更したとしよう。最終的な業績(ゴールの数)を表彰するのではなく、点数の5割を1番多くゴールを決めたチームに、残りの5割を調査によって最も優れているチームであるとされたチームに与えるとするならば、結果に対する信頼がなくなってしまわないか。

複合的指標を用いる大学ランキングは、大量のデータを提供するものの、各分野における努力と最終的なランキング結果との間の繋がりが不透明であるため、整合性を伴った業績の向上を促すことができず、また、インセンティブが様々な方向に向いてしまい、その効果が見えづらい。ARWUでは、別々の指標が比較的よく相関関係にあるため、それらの指標がインセンティブとして同方向に誘引する傾向があり、共通して業績の向上を促す。しかし、QS及びTHEは異類の指標を同時利用している。

他方、もしこのような複合的指標を用いる大学ランキングが解体されるならば、個別の指標は業績の向上を効果的に促進することができるだろう。そうであれば、ランキング競争は少なくとも、単に評判のみを上げるためだけではなく、より良い業績をもたらすために利用できると言える。

※原文はこちらからご覧いただけます。

<翻訳者>新見 有紀子(政策研究大学院大学 客員研究員、一橋大学 講師)