世界の大学事情

【世界の大学事情】第10回 1.「学生の海外移動を促進する就労機会」, 2.「大学教員の国際移動:重要かつ研究の余地の大きい主題」

その1:『学生の海外移動を促進する就労機会』(Employment Opportunity as a Driver of Student Mobility)(IHE #85: 2016年)
Christine Farrugia(米国・国際教育研究所アカデミック・モビリティ・リサーチ&インパクト研究所 上級研究官)

学生の海外移動を促す原動力として、実践的な就労経験を得る機会が果たす重要性が増している。過去数年間にわたりIIEのOpen Doorsという報告書では、海外での仕事、インターンシップ、ボランティアに従事する米国学生についてのデータを掲載してきた。2013-14年には、単位取得の有無に関わらず、4万1千人以上が海外で就労経験を得ていた。米国における留学生も、学業を補完するものとして就労経験を重視しており、2014-15年に米国に滞在していた100万人以上の留学生の12%以上が、米国の大学または短大を卒業した留学生に与えられる就労機会であるオプショナル・プラクティカル・トレーニング(Optional Practical Training: OPT)に参加していた。最近の理工系学部卒業者に対するOPT参加資格期間の延長がこの高数値にある程度貢献していると見られるが、職務経験を得るために、より多くの留学生がより長期にわたって米国滞在を継続するという意欲を示していることは、国際教育におけるこの側面が学生にとっていかに重要であるかを示している。世界的にも、学生の就労能力に係る政策が留学生数に影響を与えていることが、カナダ、ドイツ、ニュージーランド、英国等の例からも見て取れる。

就労の重要性は留学生の出身国により異なる
学生のモビリティを促す原動力としての就労機会の重要性は、留学生の出身国によって異なる。多くの学生は、本国若しくは留学先で職を得る一助として実践的な就労経験を積むことを重視するが、他方、本国の経済状況が、留学先での学業に関連する就労機会を活用する強い誘因を与えることもある。

アジアからの留学生はOPTの利用率が比較的高く、これにはインド、ネパール、台湾、そして中国からの学生が含まれる。特にインドからの留学生は、留学先国での卒業後の就労機会に強い関心を持つ傾向にあり、2014-15年では、米国におけるインド人留学生の22%がOPTに参加する等、OPT参加割合ではトップの座にある。他方、卒業後の就労ビザ取得を制限する政策変更を行った英国では、インド人留学生数は過去数年にわたり下降傾向にある。本政策の実施を受け、2011-14年の間に英国におけるインド人留学生数は50%も減少した一方、オーストラリアでは70%、米国でも37%増加した。

留学と併せて実践的な就労経験を得る機会を望む学生は多いものの、卒業後の就労以外の方法を取る者もいる。ブラジル人学生について言えば、2014-15年の卒業後のOPT参加率は5%以下であるが、2011-15年の間に1万5千人以上の米国への同国からの留学生が学業と並行してインターンシップに参加していた。これらの訓練機会は、留学生が学術的知識と実用的技能の双方を修得してブラジルに戻ってくるために、ブラジル政府の科学交流プログラムの中の重要な要素として組み込まれている。留学生の出身国によっては、就労機会が学生の海外留学のパターンに与える影響が小さい場合もある。例えば、2014-15年の間にサウジアラビア及びクウェートから米国へ渡航した留学生のOPT参加率は2%にとどまるが、この低いOPT参加率は米国での就労機会に対する学生の関心の低さを必ずしも意味せず、卒業後すぐに帰国を奨励する当該国政府の奨学金の条件に起因する可能性がある。

その出身国のみならず、留学生自身の特性が、自身の学業に関連した就労機会を米国で追い求めるかどうかに影響を与える。IIEが「海外留学世代(Generation Study Abroad)」の一環で実施した、米国学生の単位取得を伴わない海外留学に係る特別調査によれば、伝統的な授業ベースの海外留学よりも、就労・インターンシップ及びボランティアを含む単位取得を伴わない活動に参加する割合について、男子の方が女性よりも若干高いことが分かった。Open Doorsにも記載されているが、所属大学により性別が報告された留学生の中では、単位取得を伴わない実践活動を行った男子学生の比率が40%であったのに対して、単位授与型の伝統的なプログラムに参加した男子学生は35%であった。男子学生の海外留学参加割合は、単位取得の有無に関わらず、女子学生に比べると低水準にとどまり続けているが、単位取得を伴わない実践活動への参加率が若干高いことについては、国際経験が自らのキャリアに実用的な利益をもたらすと認める際に、男子学生は積極的に留学するという複数報告されている事例とも一致している。

正課外の国際就労経験の価値
米国内では、インターンシップや就労経験は高等教育における重要な要素であり、教室で学ぶことのできることを超える実務経験と実用的技能を得るための極めて重要な方法であると認識されている。実際、インターンシップを学業の一環として、また卒業後の就職準備として義務付けている学術プログラムもある。留学生にとっても、米国における就労経験は、学業における教育的なベネフィットに似たようなベネフィットがあり、関心分野における重要なスキルを身につけて、最終的には留学先国、出身国または第三国で職を得る道を指し示す一助となる。留学生が留学先国に滞在し続ける場合には、その知識や技能により当該国の経済発展に貢献し、最終的に他国で働くとしても、その国同士の研究やビジネスの繋がり強化に資することになる。

留学先とは異なる国でのインターンシップや就労経験を求める学生も増加している。グローバル・インターンシップは、習得した国際的なスキルを卒業後に現実世界でどのように利用するかを試すことで、学生にとって留学をより意義深いものとするための手法のひとつである。フィレンツェで美術を学ぶのも良いが、学生の就職活動における履歴書としては、ホンジュラスで井戸を掘るチームの一員として働いたこと、もしくは中国企業のマーケティング戦略の策定に貢献した等の方が良いかもしれない。これら国際経験は、異文化“ソフトスキル”の取得に役立ち、留学に関わる多くの人になじみ深い自己変革をもたらす経験を得ることができると共に、将来の労働市場で容易に応用可能な実用的な“ハードスキル”を就労環境で得る機会を学生に与える。

※原文はこちらからご覧いただけます。

その2:『大学教員の国際移動:重要かつ研究の余地の大きい主題』(International Faculty Mobility: Crucial and Understudied)(IHE #88: 2017年)
Laura E. Rumbley(米国・ボストンカレッジ国際高等教育センター 副センター長)
Hans de Wit(米国・ボストンカレッジ国際高等教育センター センター長)

国際的な大学教員(すなわち、外国籍を持つ、地元地域出身ではない、または、海外から採用された教員)が世界中の高等教育機関や高等教育システムで働くことは、今日のグローバルな知識社会における高等教育の重要な側面である。優れた頭脳、研究、資金に加え、名声/知名度/ブランドを得るためのグローバルな競争の激化は、大学が優秀な学部生及び大学院生を惹きつけなければならないということのみならず、世界中から卓越した研究者や教員を探し当てなければならないことを意味する。

国境を越えた大学教員の移動は、高等教育の国際化という特別な現象との関連でも重要である。これに関して、学生のモビリティや、カリキュラム上のイノベーション、また、国際パートナーシップの開拓・維持等は、高等教育機関の国際化戦略における基礎的な側面であるが、この3要素全てにおいて大学教員の関わりが不可欠であることを述べておく。

しかし、大学教員の国際移動(短期的または散発的な訪問ではなく、特に終身もしくは長期的な任用)の範囲と性質は、広く知られておらず研究の余地の大きい現象である。学生の留学に関しては多くの調査や報告がなされているのと比較すると、大学教員の国際移動についてのデータや調査は驚くほど不足している。全てのレベルにおける優秀な研究者がグローバルに循環するダイナミクスが意味することについての明確な理解を試みるに際して、研究者が海外で終身または長期的な任用を追求する動機、高等教育機関がこれら研究者を採用する理由、国際移動する研究者と彼らが所属する機関との間の実際の関係性、そして大学教員の長期にわたる国際移動に係る国家や高等教育機関の政策が及ぼす影響について、理解を深めることが重要である。実際に、我々も関与した11の国と、複数の大学の視点から行った最近の研究によれば、大学教員の国際移動は拡大し続ける複雑な現象で、可能性と非対称性を孕んだ、更なる探求と分析が可能な分野であると言える。

定義上の難しさと背景の複雑さ
学生の国際移動について世界各国で多様な定義づけや分類をされるのと同様、「国際的な」大学教員の定義についてのコンセンサスはない。国籍が決定要因となるのか、それとも国籍の如何に拘らず海外で学術トレーニングを積んだこと(博士課程を修了する等)がより重い意味を持つのか。若しくは現地で「移民」としての位置付けがなされる人々を指すのか。もしそうであれば、その移民プロセスが大学で教員職に就く前に行われた場合と、就いた後後に行われた場合で意味合いに違いはあるのか。定義上の明確性や一貫性無しには、国際移動する大学教員に関する定量的また定性的な情報を比較・対照させることは非常に難しい。

他方、これら研究者を雇用する高等教育機関側にも多様性がある。まず一方には、スーパースター研究者の採用を目指すエリート研究大学がある。これら大学は世界でも引く手あまたな研究者を雇用しうる地位にあり、世界中から最も優秀な研究者を見つけ出すために全教員の採用活動をグローバルに行っている。大学教員の国際移動についての僅かな研究のうちの大部分は、これらの著名な大学に着目している。もう一方には、高等教育機関の基礎的な運営を行う上での教員不足に伴う必要性を満たすために、地域的または国際的に教員を採用する大学がある。これらの両極の間には中位から上位レベルの大学があるが、機関によって、ある程度積極的に教員を海外から採用しようとしているかもしれないし、海外からの個別の就職希望者に応じているのみの状況かもしれない。

国際移動する大学教員の定義づけは依然として一貫しておらず、これらの教員を採用する大学側にも大きな幅がある。

同心円分析: 国家、大学、個人
長期にわたる詳細な分析なくして、国際移動する大学教員についての一般化を行うことは困難である。しかしながら、我々の研究は、世界の何れの場所においても、国際移動する大学教員の経験について理解する際には、研究者レベルでの個人的経験の複雑な現実を考慮に入れつつも、国家及び大学レベルでの、それぞれが独立しつつも連動している政策と実践のダイナミクスを理解することが重要であることを示している。

国家レベルでは、海外からの教員候補は、種々の有形無形の便益や選択肢を提示されるが、これらを魅力的と思うか否かは、様々な要素に左右される。これらの要素には、当該国内での国際移動する大学教員の採用を積極的に促進(または複雑化)させる政策枠組みや、国際移動する大学教員の法的・職業上の地位に関すること、言語や文化的習慣等、国際移動する研究者の地域社会への統合を助ける(または阻害する)日常生活の側面に関すること、また、同伴する家族や自身の経験についての全体的な印象を決める地政学または環境等に関することなどのより大きな課題が含まれる。従って、国家としての背景は国際移動する大学教員個人の経験にとって非常に大切である。

その一方で、国際移動する大学教員が採用された高等教育機関内での状況が、同教員の経験に及ぼす影響も大きい。我々の研究は、海外からの大学教員の採用には様々な理由があり、採用方法についても多様であることを示している。雇用条件も多様であり、国内教員と同待遇である場合もあるし、海外からの教員向けに独自の制度があることもあるが、いずれの場合も関係者にとって課題や機会をもたらす潜在性を有している。ただし、海外からの教員の存在が受入れ機関に与える影響の性質と大きさについて調査や報告が行われたり、体系的に利用してきた形跡は稀であるように見受けられる。

最後に、大学教員の国際移動についての分析は、研究者個人という最も基礎的なレベルでの意味付けの検討なくしては完了しない。これについて、我々の研究が示すのは、国際移動する大学教員たちが、魅力的な雇用条件や、「より大きな課題」に取り組む意欲または義務感によって動機付けられているということである。彼らは受入れ国または受け入れ機関から提供される個人への支援に敏感であるが、我々の調査対象大学においての体系的な支援には大きなばらつきがあることが判明している。

研究を進めるべき事柄
国際移動する大学教員の現象については、探求の余地や解明されていないことがたくさんある。将来の研究課題として検討している事柄としては、移民政策が大学教員の国際移動に与える影響、先進国と新興国における大学教員の国際移動についての比較、公立高等教育機関と私立・非営利の高等教育機関のセクター間の対比、学術分野別・年齢別・性別での比較、オンライン教育が大学教員の国際移動に与える影響、様々な高等教育機関のタイプ別での分析等がある。

※原文はこちらからご覧いただけます。

<翻訳者>新見 有紀子(政策研究大学院大学 客員研究員、一橋大学 講師)