世界の大学事情

【世界の大学事情】第7回 「ブレグジットと来たるべきヨーロッパの姿」「イギリスの教育評価制度(Teaching Excellence Framework)とその展望」「欧州大学における経済危機の余波」

その1:『ブレグジットと来たるべきヨーロッパの姿』(Brexit and the European Shape of Things to Come)(IHE #87: 2016年)
Fiona Hunter(サクロ・クオーレ・カトリック大学高等教育国際化センターアソシエイト・ディレクター)
Hans de Wit(米国ボストンカレッジ国際高等教育センター教授兼センター長)

 ブレグジットが現実化し、イギリスの大学はヨーロッパの高等教育界とともに、ショックと不信で未だに揺らいでいる。学術コミュニティーは教員も学生もEU残留の熱烈な支持者であり、大学が所在する都市でも残留支持者が根強く、それらの多くの都市で残留支持者が70%を大きく上回っていた。ここで提起される主な問題は、イギリスのヨーロッパ連合(EU)からの離脱は、イギリスからの頭脳の流出にもつながるのかというものである。目下のところ、イギリスの学生の約5%がEU出身者である。そして、彼らは全体として留学生の中で最大のグループを形成し、大学に多様性をもたらすことに貢献するとともに、イギリスの経済に対して約37億ポンドの収益を生み出している。だが今後は、ビザ取得の要件とその料金の程度にまつわる不確かさによって、EUの学生の出願者数の低下を招くかもしれない。イギリスの高等教育機関で働く研究者の15%がEUの市民であるが、彼らは今、自分の職位や将来の見通しに対する安堵感を求めている。EUに対して友好的な環境が残存するイギリスの大学においてさえも人種差別主義的な出来事が増加傾向にあるという憂慮すべき報告は、イギリス以外の多くの国々の人々にイギリスの高等教育機関で学術的なキャリアを積むことを断念させることになるかもしれない。離脱支持者の強力な反移民的姿勢を考慮すると、非EU諸国からの大学教授や学生はイギリスでの未来についてより一層懐疑的になるだろう。英国のEU離脱は醜悪なキャンペーンであり、EU離脱に投票した者は、投票用紙の欄に×印をつけるとき、高等教育への影響を念頭にはおいていなかったが、その結果はイギリスおよびヨーロッパ各地の大学に対して広範囲な影響を及ぼしており、今後もその影響を及ぼしうるだろう。
 この不安定な時期に大学ができる唯一のことは、短期間であっても、学生および教授陣に学びと労働の権利について改めて保証することで断絶を最小限に食い止めることであるが、ここには未回答の問題が多く残っている。EUのプログラムの中でイギリスの大学は突出して良い成果を上げており、イギリスの大学のいくつかは実質的にEUの研究費に頼っているため、研究資金に関する懸念が増大している。エラスムス・プラス(EU内外の学術交流支援プログラム)に対するアクセスが将来どうなるのかについても同様に不確かである。もしかしたら、解決策はスイスやノルウェーにおける高等教育への参加モデルに見られるように、すべて自国の資金により賄うという形に沿ったものになるのかもしれないが、イギリスの経済状況とこれら二国の経済状況を比較すると、目下のところ、確かなことは何もない。
 このような懸念は国際的な学術交流、共同研究、知識共有や、才能を持つ人々の自由な移動、国際的なネットワークへの参加という、より大きな問題につながってくる。イギリス無しでの欧州高等教育圏(European Higher Education Area)は、すべての人にとって事態をがらりと変えるものである。

どうやって今の姿に至ったか
 イギリスのEU離脱という結果は、欧州がより強力で一体化した現実として出現した今世紀の初めには、想像もつかないことのように思えたであろう。ヨーロッパ連合が15ヵ国から現在の28ヵ国に拡大し、ユーロが単一の通貨として19の国で採用され、シェンゲン圏では20の欧州諸国と6の非欧州諸国で国境が開放されたのである(もっとも、イギリスはその両方共に不参加だったが)。そのヨーロッパのプロジェクトが前進するにつれ、強力な内的および外的勢力がその基礎を弱体化させ始めた。グローバルなレベルでは、2001年のニューヨークでのツインタワーへの攻撃が不安定さとテロへの恐怖をもたらし、ヨーロッパの統合が進むことがその解決策であると捉える者もいたが、それを問題視する者もいた。オランダとフランスにおける投票者は2005年にヨーロッパ憲法を拒否し、2008年に始まった経済危機は、新しい緊張と恐怖を引き起こした。ヨーロッパが経済的および政治的危機に晒され、国境の内部で未曾有の規模で難民に関する緊急事態が発展する中、統合プロセスは崩壊し始めた。問題は今ではさらに肥大化し、状況はより緊迫したものとなっている。ヨーロッパの諸機関は、直面する問題に対し信頼のおける解決案を提示することができていないため、協力の精神は低下し、ヨーロッパに対する自信の欠如が醸成された。反EU感情がその加盟諸国の間に広がったが、ブレグジットが今のところ、その最も劇的な帰結である。

ブレグジットと欧州高等教育圏
 今世紀の最初の10年における欧州高等教育圏の出現は別の物語を語っている。エラスムス計画の成功体験を基に、ボローニャプロセスが本格化し、1999年の4ヵ国から2010年までに48ヵ国、5600の大学、3100万の学生がその対象となった。当初は学位の構造、単位システム、質保証の共通化を通じてヨーロッパの大学を秩序立てることに重点を置いていたが、すぐに別の外形を獲得した。構造やツールの集約化はヨーロッパ内での協力を推進するだけでなく、世界の他の国にとってヨーロッパ大陸をより競争力のある魅力的な行き先にすることを目的としたのである。これは、グローバリゼーションと知識経済の出現により、ヨーロッパの大学が、競争力のあるアプローチを開発すること、才能を持つ人々を世界から獲得すること、また自校をその国境を超えて位置づけることを要求され、変化の風を感じ始めた時期である。ボローニャプロセスは共有された問題に対して、共有された解決の枠組を提供したのである。
 ボローニャプロセスは、多くの国の政府が数十年かけてできなかったことをたった10年で成し遂げ、画期的な改革としてもてはやされたが、異なる国や高等教育機関において同様の進化の道を辿ったわけではなく、各施策の実施における変化のスピード、成功の度合いなどには著しい差があった。ヨーロッパの大学自体は欧州協調を固い信奉者でありかつ甚大な利益の享受者であったが、異なるEU加盟国において経済・政治環境に未曾有の次元の不安定さと変動性をもたらす更に速いグローバリゼーションの進行により、このような高等教育機関間の差の拡大傾向は一層強められた。

今後はどう進めばよいか
 ブレグジットによる明白なメッセージがあり、それは国際的な大学や欧州の大学がどれほど求め主張したとしても、大学はその使命、範囲、活動を定義し時には制約を課すというその所在する国の文脈の中で活動しているということである。この政治的帰結は大学の国際化に否定的な影響を与えかねないが、同時にレトリックを越えて、国際化を意図的に学術的な価値に再び結びつけることの大切さについての認識を高めるものである。
 意識をより一層高く持ち、国際化を高等教育機関としての使命と目的意識により統合していくことによって、大学は学生と研究者の国際的な共同体の価値および影響を、まず自分自身に、次に、来たる交渉において政府に示すことができる。イギリスの大学は現在、多様性の大切さ、そしてそれが大学の成功にとってどれだけ不可欠なものであるかに関する声明を出そうとしているが、国際的な共同研究や国際的な授業やキャンパスを持つことの意味、および、それが大学の全ての成員にどのような利益をもたらすかについて、はっきりと述べる必要がある。
 イギリスの大学は国際化を知名度や収益創出目的以外の言葉で表現する方法を見つける必要があり、現在作成中の声明に見られるように、真に包含的なアプローチの重要性を示す必要がある。イギリスの大学は欧州協力によって発展した教育機関の良い例であり、結果として、より断固とした信念を持ち、よりその使命を果たしやすい。前には険しい道が待ち構えているが、イギリス抜きの欧州高等教育圏は全ての人に取って損失となるだろう。

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その2:『イギリスの教育評価制度(Teaching Excellence Framework)とその展望』(What is the Teaching Excellence Framework in the United Kingdom, and Will it Work?)(IHE #88: 2017年)
Paul Ashwin(英国ランカスター大学教育研究学部教授兼グローバル高等教育研究センター研究員)

 イギリスでは、政府が高等教育の教育制度評価(Teaching Excellence Framework: TEF)の導入に着手している。イギリスとEUの学生の授業料が2012年秋より最大で9000ポンド値上げになったため、イギリスの大半の高等教育機関はこの上限の金額を授業料として学生に請求することとなった。政府には、このように一律の授業料を課すことは、学生に提供する学位プログラムの質を覆い隠すものであるという認識がある。TEFの背後にある中心的な考えの一つは、高等教育機関がインフレに従って授業料を値上げするためには、高水準の学部教育を学生に提供しているということを示す必要があるというものである。これは、学生が請求される授業料は、学生が受ける教育の水準を反映することになるという意味である。さらに、TEFを導入することによって、学生が自ら学ぶ内容や学ぶ機関について十分な説明を受けた上で選択することができる情報が提供され、高等教育機関における教育のプロフィールが高められるとともに、高等教育機関における教育のプロフィールがより良く認知され、高等教育機関に対してその見返りが与えられることを保証し、さらには高等教育が雇用主や産業界のニーズを満たすということを導くと予想される。

TEFはどのように展開されるのか
 TEFは長い年月をかけて導入される。1年目には、英国高等教育質保証機構(Quality Assurance Agency: QAA)による機関レビューで肯定的な評価を受けた教育機関は自動的に、2017年9月より授業料を値上げする資格をもつ。2年目以降、高等教育機関はTEFを受けなくてはならず、これによりその高等教育機関における学生による教育に関する意見、全国学生調査(National Student Survey:NSS)の評価と学術支援に関するデータ、学生の退学率、高度な技術を有する者の採用指標を含む就職率、高等教育の卒業後の進路に関する調査データ(Destinations of Leavers from Higher Education: DHLE)によるさらなる調査などの各指標が精査される。NSSは学生の教育に対する受け止め方の実態を伝えるものではあるが、これらの指標のいずれも教育の質を直接伝えるものではないということは特筆すべきである。むしろ、これらの指標はそのような教育の想定される効果の調査に焦点を当てるものである。高等教育機関のパフォーマンスは、その大学の学生層の特徴を基準にして評価され、これに基づくと、学生のパフォーマンスが、その基準と比較して有意に高かったり低かったりするとフラグが付される。
 評価者はまず、各機関のパフォーマンスをそのフラグの数を基に評価し、背景情報および教育機関により提出された最大15ページに及ぶ自らの機関の教育の卓越性に関する事例の概要を精査する。これに基づき、TEFは各機関にTEF金、銀、銅賞を与える。これらの賞は高等教育機関により提供される個々のプログラムの質ではなく、その高等教育機関におけるプログラム全体の質の指標を学生に提供するものである。2年目には、各賞を受賞した高等教育機関は、2018年9月に同額の授業料を値上げすることができる。3年目には、賞の違いが2019年9月より値上げできる授業料の額に影響を与え始め、高等教育機関内の個々の学科に対するTEFに焦点を当てることを狙いとした試験的評価も始まる。4年目には、学科レベルでのTEFが導入され、大学院生の教育をも包含することが予定されている。

TEFは目的にかなうのか
 ある意味で、TEFは学生に対して、自分の学位プログラムの質に関して、全国大学ランキングによって現在提供されているものよりも優れた情報を提供する。それは教育の質を直接伝えるものではないものの、TEFの2年目に提案されている指標には一定の論理がある。即ち、教育、サポート、評価が悪いと学生が感じるプログラム、また、大部分の学生が卒業せずに去っていくプログラム、修了時に職を得るものがほとんどいなかったり、大学院課程に進学するものがほとんどいないようなプログラムの中に優れたコースがあると想像するのは難しいということである。学生の受け入れ人数の差を考慮したり、統計的に有意な差をフラグで示すことへのコミットメントは、大学ランキングに対する顕著な改善点である。大学ランキングは、中間層の学生の多い高等教育機関に有利になる傾向があり、また、単なるランク順に過ぎないため、多くの項目における差は、提供されている授業の質の差別化にとっては通常無意味である。しかしTEFにも課題は存在する。まず、教育の質は高等教育機関のレベルではなく、個々のプログラムのレベルに存することは明白である (同じ高等教育機関が非常に良いプログラムと非常に悪いプログラムを持つことは排除しえない。)それにも関わらず、学生は少なくともTEF導入後4年目までこの個々のプログラムの質に関する情報を得られない。そして、それを知る時点においても、手にしうるデータの最初の評価は、この次元での意味のある情報を提供するほど十分に強固なものではない。

将来、TEFはどうなるか
 TEFの将来は不安が大きいように思われる。政府が今後TEFで扱う指標の数を増やしたいと考えていることは明らかであり、既に、政府は学生の学習時間に関する指標の開発をしたいとの強い要望を示している。問題は、単純にこれが教育の質の妥当な指標であるという証拠がないということであり、その一方で、教育者の専門知識や技能のように、教育の質を決めるのに不可欠な事柄が潜在的なTEFの指標として議論さえされていないということである。TEFが教育の質と関係のない指標に基づくことになってしまうならば、それは優れた教育についてというよりも教育機関によるゲームプレーを表すものになってしまうという危険性がある。特に、学習時間に焦点を当てることは問題である。というのも、高等教育機関が自校の得点を改善するために学習時間を再定義するのが、そのもっとも有りそうな帰結だからである。これは、学生が実際に体験することを変えることなく、うわべだけの学習時間の増大につながるであろう。(しかるに)どのような指標も必ず満たさなくてはならない決定的な基準は次のようなものである。学生が体験する教育の質の向上を通してのみ、指標の得点の向上が可能になるということである。
 問題は、高等教育における質の高い教育をもたらす要因に関する40年以上に及ぶ研究に基づくエビデンスの考察が殆どなされていないことである。これもTEF内の教育の卓越性についての判定の土台となる評価基準に反映されている。例えば、教育の質を考察するために使われている評価基準(学習環境や学生の学業成果に関する別の基準もある)は、学生の授業への参加を促進すること、高等教育機関において教育に価値を置くこと、コースにおいて厳格さと難度の高さを保証することに加え、学生の成果物に対する効果的なフィードバックなどの各要素を奇妙に混ぜ合わせたものである。これらの要素は、学生が必要とするものについての常識的な考えに則るものなのかもしれないが、どのような基準でこれらの要素が含まれ、教育の専門知識や技術などその他要素が排除されるかを理解するのは困難である。全体を通じて、これら要素がどのように教育の卓越性について重要なことを物語る評価基準を形作っているのか、また、これらの要素の土台となる教育に関する見方は何なのかについては全く明らかではない。

結論
 結論として、TEFは異なる大学の高等教育のコースの質について、将来の学生に対して妥当な情報を提供する潜在性があるように思われる。学生が学位取得にかかる費用を負担する上で、そのような妥当な情報は不可欠である。それでも、高等教育における質の高い教育に関する研究および学業評価指標の導入に対する高等教育機関の反応の仕方について我々が知っていることについてのさらなる考察がなされない限り、この潜在性は実現されることはなさそうである。

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その3:『欧州大学における経済危機の余波』(European Universities in the Aftermath of the Economic Crisis)(IHE #87: 2016年)
Jo Ritzen(マーストリヒト大学国際経済学(科学・技術・高等教育)教授)

 経済危機は、7年の時を経て、2015年に終わったように思われる。EU諸国の大半で、経済が再び持ち直してきた。経済危機の間、経済成長は低下し、税収は減り、公的資金で銀行は救済され、政府債務の水準が上昇し、(若者の)失業率は増大した。政府は、財政赤字と債務残高対GDP(国内総生産)比率についての「マーストリヒト基準」を満たすために予算を削減した。欧州の大学は、直接的な学生1人当たりの支出の削減と、(それよりもかなり小さな規模ではあるが)学費援助(貸与と給付)の削減により、この影響を被った。デンマーク、オランダ、スウェーデンなどのいくつかの国では、EU圏外の留学生に対して授業料全額を課し始めたが、イギリスを除くEU諸国の政府は、直接経費における公的資金の損失を授業料の値上げによって大学に補填させることをほとんど認めなかった。
 銀行による救済措置とGDPの減少の面では、アメリカよりも欧州の方が強い財政的及び経済的危機に見舞われた。これは、大学や学生にも同様に体感された。ヨーロッパ大学協会がデータを集めた22の欧州の国と地域の半数以上で、経済危機の間、国の大学教育(学費援助含む)への支出が削減され、とりわけ、ギリシアとハンガリーで最も大規模な削減(40%以上)が行われた。欧州緊急資金(European Emergency Fund)の傘の下で救済を求めた国々(キプロス、ギリシア、アイルランド、ポルトガル、スペイン)に所在する大学では、直接経費の財政支援、学費援助、研究の面で、甚大な影響を被った。

欧州の競争力の減少
 2000年にEUは高等教育と研究による経済革新を通じて地域の競争力を高めることを目的としたリスボン・ストラテジーを打ち出した。経済危機は減速し、中には経済成長に転じた国もあった。しかしまだ多くの国では、近い将来更に政府債務を減らすために、高等教育・研究に対する政府の支出を削減する必要性があるだろう。
 EUの交換留学プログラムであるエラスムス(Erasmus)は、経済危機の間、学生の流動性を維持し、さらに促進させるのに有益であった。しかし、EU域内の学生の流動性(大学の全入学者の4%)は、アメリカ国内の学生の流動性と比べると低かった。深刻な資金不足の国々(大半は南欧)出身の富裕層の学生の西ヨーロッパへの移動は、ヨーロッパにおける言語の差がその大きな障害として立ちはだかり続けているにも関わらず増加傾向にある。
 EUは現在、1999年のボローニャ合意により始動したプロセスのおかげで、大学の学位構造に関しては、学部、修士、博士のレベルとともに比較的均一である。だが、大学の組織構造は、法律の実質的な違いにより、ヨーロッパを通じて大幅な違いが存在する。中には、財政面、組織面、教育面、またカリキュラムや人事に関してさえも、未だに政府によって大学が厳しくコントロールされ、自治がほとんど認められていない国々もある。経済危機の間、大学の改革は事実上停止したが、これはおそらく、大学が他の不確実な事柄に直面している中においては、変化への機運というものが有益なものではなかったからかもしれない。
 大学の卒業生が持つ能力は、大学の資金調達や組織と関連がある。経済危機の衝撃は、EU経済の革新的な力を、大学卒業生の能力に依存する限りにおいて、減少させた。研究の生産性は継続的に上昇したが、これは経済危機以前の投資の結果と思われる。将来的には、研究が経済危機により損害を受けた程度が、とりわけ、その経済危機の間深刻な不況に喘いでいた国(大半は南欧諸国)で示されることになるだろう。EU枠組プログラムは、国家レベルの研究費削減をある程度補填し、大学間の状況の違いの収斂を奨励したが、これに対して、ドイツにあるような大規模な特別出資である「エクセレンス・プログラム」(幾つかの選抜した大学のみに特別予算を計上するプログラム)は大学間の格差を生むことになるだろう。
 北西ヨーロッパおよび中央、東ヨーロッパ諸国は、南ヨーロッパ諸国に比べ、経済危機に対して回復力があるように思われる。北と南ヨーロッパの大学卒業生の能力格差が一層広がることが予想される。
 経済危機がヨーロッパの大学における学びの内容や手法、あるいは研究に対する変革を推進したという考えを支持するエビデンスはほとんど無い。

機会均等の保護
 高等教育に対する全公的支出の額に比べて、学生に対する財政支援の利用可能性から算段するならば、欧州の高等教育への参加機会の均等は阻害されていない。経済危機の間、欧州諸国の多くは、公的支出の削減を補填する目的で高等教育の私的(直接)費用を値上げすることを控えた。欧州の伝統である安価または無償の授業料および十分な学生への助成金による裏打ちされた機会の均等の保障は、上流階級および上流中産階級(全人口の中でより裕福な階層出身の子供で、大学に行くことが多い)を利するものであるとして激しい批判に見舞われた。この観点からすると、(今、イギリスで導入しようとしている)高い私的費用を課すとともに社会ローンを提供するという選択肢の方が平等であるということになる。しかし、この選択肢は、大陸ヨーロッパの政治的伝統には向かないように思われる。
 それでも、アメリカと比べると、欧州は機会均等の保護という面で、危機の間、酷い失敗をしたとは言えないかもしれない。アメリカは、莫大な授業費の高騰により、高等教育における世代間の流動性を促進する競争力を失ったかもしれない。(GDPに対して同レベルの学生への助成金を支出する)ヨーロッパに比べ、アメリカでは、経済危機が低-中所得層の若者が高等教育に参加するのをより困難にさせたと思われる。

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<翻訳者>新見有紀子(政策研究大学院大学客員研究員、一橋大学講師)